読者遠灯

のぐちの記録日記です。

2023年映画ベスト10

2023年に観たその年公開の作品は31本くらいで例年に比べると本数はやや少ないけど、面白い映画を幾つも観れたのでここにベスト10の形で記録しておきます。

1位『ザ・キラー』

2位『イノセンツ』

3位『フェイブルマンズ』

4位『アステロイド・シティ』

5位『ザ・ホエール』

6位『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』

7位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

8位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

9位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』

10位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

 

以下各作品にコメント。

1位『ザ・キラー』

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殺し屋の復讐劇。デヴィッド・フィンチャー好きなのでこの位置に。特にトレント・レズナーアッティカス・ロスを劇伴に迎えた『ソーシャル・ネットワーク』以降の作品が好きなんですが、今作はまさにその手癖で取られたような映画で良かった。画面の黒さやカメラの精度なんかは似た見た目の映画あるはずだけど、この映画を見ると一発でフィンチャーの画だ!とテンションが上がる。

僕は「犯罪の準備をするシーン」が映画の中でも特に好きなんですが、今作は殺しの準備と殺しのシーンだけで構成された映画で、変わった映画ではあるんですが自分にとってはデザートのような映画だった。

 

2位『イノセンツ』

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ノルウェー郊外の団地を舞台にした超能力サスペンス。と書くと大友克洋の『童夢』じゃないかと思われるかもしれないが、まさしく『童夢』そのもので監督も元ネタとして言及している。

原作者としてクレジットされてもいないのでパクリと言われても仕方ないと思うけど、映画として面白かったのでこの位置にランクイン。超能力の描写の生っぽさや、能力の全てを説明仕切らない塩梅も良かった。スリラーとして面白い演出がたくさんあるので楽しいが、子供にとっての自分達の歩いている世界の不安定さを描写したようなセリフや映像も見事だと思った。

 

3位『フェイブルマンズ』

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スピルバーグのほぼ自伝映画。映像の幸福感がたっぷり、それが辛いシーンだったとしても。

だが見てからしばらく時間が経ってしまい物語に対してこれという感想が浮かばず。面白かったという感触だけはしっかり残っているので見直したい。

 

4位『アステロイド・シティ』

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説明がかなり難しい映画。アメリカ西部の荒野を舞台にした演劇『アステロイド・シティ』とその演劇の制作過程を見せていく物語と説明するのが一番シンプルか。ウェス・アンダーソンのいつも通り徹底した画面作りに魅せられウットリしてしまう。お話は前述の通り非常に複雑でキャラクター達も無表情で声のトーンも淡白なのでどんな物語なのかを追うのも難しいのだけど、その難解さも含め楽しい世界観が構築されていたなと思った。終盤自分の役柄の心理状態が理解できず舞台からはけるオーギー役の俳優(ジェイソン・シュワルツマン)が同劇でオーギーの妻役としてキャスティングされていながら出番のシーンが無くなり出演もなくなってしまった俳優(マーゴット・ロビー)と鉢合わせ、その削除されたシーンの掛け合いを演じることになるシーンが本当に素敵(というか今の説明で伝わりますか…?)。そのシーンというのが劇中劇でオーギーが夢の中で亡き妻と会話するシーンなんですね。オーギー役の男はこの掛け合いによってオーギーの心理を理解することになるんですが。こんな設定にこんなシーンを思いついてこの完成度で実現出来ることに本当に感服してしまった。劇中劇から一つレイヤーの外に出てきたのにそこで劇中劇の中の夢という、より深いレイヤーに辿りついているんですよ。……説明が十分に出来ないので観てください。

 

5位『ザ・ホエール』

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オンラインで大学の講師をしている超肥満体型の男のお話。

これはキャラクターがみんなそれぞれに立っていて面白い。オンラインでエッセイを教える講師でありながら、歩くとかご飯食べるとか全ての行為がいつ死に繋がってなおかしくないという超肥満体系のチャーリー(ブレンダン・フレイザー)。チャーリーと別居中の娘で厨二病真っ盛りのエリー(セイディー・シンク)。チャーリーの唯一の友人リズ(ホン・チャウ)。キリスト教のカルト一派の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)。といった限られた登場人物達がチャーリーの家という限られた空間の中でドラマを展開していく。それぞれに足りないものを持った非常に人間的なキャラクター達が罵倒しあったり、言い訳をしあったり、慈しみあったりととにかく人物を面白がる映画として撮られていたのが印象的だった。終盤にやたら伏線回収してくる時間があってあれが変だった笑 ここいるか?

 

6位『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』

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原題はTeenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem 。10代で忍者でミュータントの亀たちというそもそもこの題材が持っている要素のごちゃごちゃ感。これが映画の画面にふんだんに現れていてとても楽しい。しかしこれもいざ感想書こうと思うと観てから時間が経って結構忘れてしまっているのでまた見直したいな笑

 

7位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

8位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

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7、8位はどちらもマルチバース(多元宇宙)を扱った映画。マルチバース映画ってジャンルはこっからよりポピュラーなものになっていくのだろうか。少なくともアクロスザスパイダーバースはマルチバース表現の既に一つの到達点に辿り着いていてこれを物量的表現で上回るのはむずかしかろうというヤバイ画面が観れた。8位も実写のマルチバース表現として頭数個飛び出した感がありどちらも映像の満足度が高かった。またどちらの作品も宇宙の無限の広がりを見せることを個人の物語を際立たせることに利用した作劇で、すごく個人的な物語に帰ってくることで世界に突き放されずに映画を自分ごととして面白く観終えることが出来る。そういう意味でマルチバースのビジュアル的表現より語りの上でどういうアイテムとして活用するかという方向にまだまだ可能性があるのかも?全然不人気ジャンルになるかもしれないしわかんないけど。

 

9位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』

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GOTGシリーズの完結編として、特に終盤の最終回感というか一つの物語が終わっていく様子にグッときた。

特に好きなキャラはネビュラだろう。第一作から登場するキャラで最初はガーディアンズの命を狙う悪の刺客みたいな感じだった。彼女は父親である宇宙大魔神サノスにひどい虐待をされている上、姉である超優秀仕事人ガモーラに強いコンプレックスを持っている。MCUのシリーズを経て彼女がガーディアンズの仲間になるとなんと頼もしいことか。一作目で持て余したコンプレックスを鬼の形相で叫び散らしながら姉であるガモーラに突撃していた彼女が今や、ふざけ倒したガーディアンズのメンバーに同じように鬼の形相で説教しているではないか、それもロケットを想って。彼女のコンプレックスや激情型の性格が裏返って仲間に向けられる様をみるととても愛おしくなる。

ガーディアンズのメンバーのほとんどが親と離別していたり、もしくは虐待を受けていたりと家族から愛を受けられなかったものたちで、そんな彼らが埋め合わせるように擬似家族を形成してきたのがこのシリーズだったわけだけど、エンディングではそんな彼らがそれぞれの道に踏み出して人生を獲得していこうとガーディアンズを卒業していく様にも感動した。自分の人生を生きていくために必要な愛でそれぞれが満たされたこと、言い方を変えればやっと彼らが彼らの人生のスタートラインに立てたように見え、ガーディアンズという家族が依存的関係ではなく、心の中のお守りのように作用していくことが示されたのだと思った。愛とはそういうものかも。

 

10位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

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Wikipediaから引用。舞台は1920年代のオクラホマ州オーセージ。その土地の石油鉱業権を保持し、高い利益を得ていた先住民オーセージ族が次々と謎の死を遂げる。元テキサス・レンジャーの特別捜査官トム・ホワイトは、後のFBIとなる捜査局と29歳のジョン・エドガー・フーヴァー長官の下、大規模な捜査を開始する。しかし、利権や人種差別が複雑に絡み合う事件に捜査は難航する。

これだけ読むとジェシー・プレモンス演じる捜査官が主人公のようだが(原作のノンフィクションではそう)、映画版ではレオナルド・ディカプリオ演じるある白人青年が主人公。こいつがとにかく情けなくて嫌で同時に忘れられないキャラクターになっている。

鑑賞ビリティというか話は重くて長いのにグイグイ観れてしまう凄さでランクインせざるを得なかった。

 

 

自分で意見を書く場を設けたのに「良かったけど忘れたので見直したい」とか書いてブログとしてどうなんだ。こう並べてみると自分は映画の面白さの基準を画面の楽しさや完成度に置いているんだなと気づく。逆に物語やキャラクターへの理解、語りの面白さへの意識は薄いかもなーなんて思った。

残酷な追体験『マンディンゴ』

1840年奴隷制度があった旧南部における奴隷牧場の様子を描く。

奴隷制時代を綿密に描く映画といえば、『それでも夜はあける』や『ジャンゴ』等があるがあれらは綿農家で働かされる奴隷だったのに対し、この映画で描写されるのは奴隷そのものを交配させ飼育する奴隷牧場である。

上に書いた二つの映画でも、目を覆いたくなる辛い事実がたくさん描写されるが、この映画は上の2つよりさらにしんどかったように思う。

冒頭奴隷売買のシーンでいきなり「去勢はされているか?」「いや父親の代から去勢はしなくなったよ」という会話があり、それらの会話をする白人男性の様子のおちつきぶりが狂っていて怖い。終盤で出て来る高齢の奴隷を殺す毒なんてものがあるのも知らなかった。人間を家畜としか捉えていない。

他にも娯楽としての奴隷同士の殺し合いや性行為の強要等、18世紀のものとは到底思えないような倫理観が徹底的に描写されていく。その差別の構造自体は21世紀の今でも維持されたままであるのだが。

この映画、徹底してグロテスクな現実を再現する上で南部のじっとりと強い自然光をカメラで捉えており、誤解を恐れず言うならとても締まっていてカッコいい画になっている。毎シーンが絵画のような質感とコントラストを伴っている。オープニングシークエンスで南部の森林を中継にゆっくりと列をなす奴隷たちの前景には真っ赤なオープニングクレジットが現れ、初っ端からこのカッコ良すぎる画面に釘付けにされる。

締まった画面とグロテスクな内容によってなされる残酷な追体験だった。

変革を望む者と望まない者『自由の国アメリカ 闘いと変革の150年』

Netflixで『自由の国アメリカ 闘いと変革の150年(原題:Amend: The Fight for America)』というドキュメンタリー番組を観た。

原題にあるamendとは"修正する"という意味の単語で、これはこの番組が主な題材として扱っている憲法修正第14条のことを指していると思われる。

憲法修正第14条というのはざっくりと言うと「アメリカで生まれた人、アメリカに帰化した人はアメリカの市民です。これらの人の自由や平等を脅かしてはいけないし、資産を奪ったりしてもいけません」というような憲法らしい。憲法なので州の法律等もこれに従わなければならない。

この憲法修正第14条は南北戦争で黒人奴隷が解放された際彼らの自由とアメリカ人としての権利を保障するために作られた法律。

この憲法が定められるところがこのドキュメンタリーのスタートなのだが、このような憲法が出来てなお平等に扱われていない人々がたくさん居た(2021年現在もいる)。アメリカに住む黒人、女性、同性愛者、移民等アメリカにおいて平等に扱われていなかった人々がこの憲法修正第14条に書かれていることを信じ、この法律の適用範囲を広げていくことで自分たちが平等に扱われることを目指す。という彼らの軌跡が語られるのがこの番組である。

南北戦争以降のアメリカでどのようにそれぞれのコミュニティが権利を獲得していったかがわかりやすく、また活動家や研究者のコメントとは別に過去の活動家や政治家の発言を代わりに読みあげる役割で豪華な俳優が何人も出演するのでとても見応えがある。

自分で知っている範囲の俳優を書くとメインの語り手であるウィル・スミスの他、マハーシャラ・アリサミュエル・L・ジャクソン、『オレンジ・イズ・ニューブラック』のラヴァーン・コックス、『マスター・オブ・ゼロ』のリナ・ウェイス。アフリカ系以外の俳優も出演しており、ペドロ・パスカルや『ワンダヴィジョン』のランドール・パーク、ジョセフ・ゴードン=レヴィット。

映画好きな人だったら上記の俳優以外にも「おおっ!」となる人が多そう。

特に元奴隷であり奴隷解放の活動家であったフレデリック・ダグラスの言葉を読み上げるマハーシャラ・アリの表情や声の存在感がとても印象的。

 

シーズン全体で150年前から段々と現代に近づきつつ、どのコミュニティがどの段階で権利を獲得するに至ったかがタイムラインで整理されながら進むのでアメリカ現代史を見ていくと言うつもりで見ても良さそうだし、わかりやすかった。

「権利が与えられるのを待つ必要はない。自ら要求して良いんだ」

という言葉がこの番組を要約する上で適切だとおもう。

現状を変えようとする人々に心を動かされるのと同時に権利をすでに所持しておりその不平等な構造を変えようとしない人らへも関心が向く。

翻って自分自身が置かれている状況ってどうなんだろうと考え見ると、社会への不満はあることにはあるが、大きな苦労をせず生活出来ていることを考えれば、この番組で言う白人男性の立場に近いだろうなと思った。

先日職場の帰り、同僚の女の人に「電車で寝るってすごく気持ちいいですよね」と言ったら「1人の時は怖いから寝ない」と言ってて、自分が自覚していないまま所持してる特権て幾らでもあるんだ…と思いちょっと気まずかった。