読者遠灯

のぐちの記録日記です。

残酷な追体験『マンディンゴ』

1840年奴隷制度があった旧南部における奴隷牧場の様子を描く。

奴隷制時代を綿密に描く映画といえば、『それでも夜はあける』や『ジャンゴ』等があるがあれらは綿農家で働かされる奴隷だったのに対し、この映画で描写されるのは奴隷そのものを交配させ飼育する奴隷牧場である。

上に書いた二つの映画でも、目を覆いたくなる辛い事実がたくさん描写されるが、この映画は上の2つよりさらにしんどかったように思う。

冒頭奴隷売買のシーンでいきなり「去勢はされているか?」「いや父親の代から去勢はしなくなったよ」という会話があり、それらの会話をする白人男性の様子のおちつきぶりが狂っていて怖い。終盤で出て来る高齢の奴隷を殺す毒なんてものがあるのも知らなかった。人間を家畜としか捉えていない。

他にも娯楽としての奴隷同士の殺し合いや性行為の強要等、18世紀のものとは到底思えないような倫理観が徹底的に描写されていく。その差別の構造自体は21世紀の今でも維持されたままであるのだが。

この映画、徹底してグロテスクな現実を再現する上で南部のじっとりと強い自然光をカメラで捉えており、誤解を恐れず言うならとても締まっていてカッコいい画になっている。毎シーンが絵画のような質感とコントラストを伴っている。オープニングシークエンスで南部の森林を中継にゆっくりと列をなす奴隷たちの前景には真っ赤なオープニングクレジットが現れ、初っ端からこのカッコ良すぎる画面に釘付けにされる。

締まった画面とグロテスクな内容によってなされる残酷な追体験だった。